2008年12月31日 市野瀬・ドライブイン水車にて
午前11時13分、ドライブイン水車に到着した。土佐清水市と四万十市の境界線に程近いこの休憩所に僕は再び戻ってきたのだ。
「水車」と白い大きな文字の書かれた食堂の赤い屋根が妙に懐かしい。あれからまだ2日しか経っていないにもかかわらず…。ここで食べた丼飯の味が未だに鮮明に記憶に残っている。一昨日歩いた大岐への道程は、このドライブインを過ぎてからが正念場だった。そして、今日これから歩いていく道程も、この場所からが正念場となるだろう。
(せっかくやから、なんか食べていくか…。)
正念場を前にしての腹ごしらえといきたいところだが、食事を摂るにはまだ少し時間が早い。空腹感も全く無かったので、とりあえず休憩だけでもさせてもらおうと、食堂横のベンチへ向かった。
ベンチには若いお遍路さんが二人、身支度を整えながら、丁度出発しようとしているところだった。何となく見覚えのあるこの二人…。 いや…。 あれは、紛れもなく…!
(おおっ、あれはKさんとNさんやないかっ!!)
思わず声をかけると、「おお…」と二人共手を挙げて笑って出迎えてくれた。なんとかこの二人に追いつけたようだ。
「Nさん、やっぱりこちらの道を選びましたか…。」
少しニンマリした表情でNさんに訊ねると、
「いや、Kさんと歩いているうちに、なんだか自分も真念庵を見ておきたくなったんでね。…というか、今朝はどうも足の怪我が少し痛むんですよ。あまり調子がよくないみたいでね…。たぶん今日は独りで歩くのはきついんじゃないかなって思うんですよ。だれかと一緒に歩いたほうが、精神的にも楽だと思うんでね。そんなわけで今日一日、Kさんについていこうかなって決めたわけです。」
大丈夫かと少し心配になったが、隣で黙って頷いているKさんの顔を見ていると、不思議と安心感が湧いてくるのだった。
(この人が一緒やったら、大丈夫やろう。なんとかなるわ…。)
安定感抜群(僕の勝手に抱いているイメージだが)のKさんがいれば、Nさんも心強いだろう。
「ところで六根清浄さん(仮名)、やっぱり真念遍路道は諦めきれませんか?」
唐突なNさんの問いに一瞬戸惑った。「諦めきれませんか?」という言葉の中に「止めたほうがええぞ、考え直せよ」といったニュアンスが多分に含まれている気がしたのだ。他人の考えや方針を尊重し、決して自分の考えを押し付けないタイプのNさんにしては珍しいセリフだった。
「今のところは、まだ諦めきれませんねえ…。どんな道なのか、どうしても見ておきたいんですよねえ…。」
「うーん…。でも、真念遍路道っていうのは山道じゃないですか。この時間からだと、山道の途中で日が暮れちゃうんじゃないですかね…。さすがにそれはマズいと思いますけどね。」
Nさんの言うことはもっともだ。その可能性はかなり高い。ここから真念遍路道の入口にあたる三原村上長谷の集落へはおよそ10kmの距離があり、到着するのにおよそ3時間はかかるだろう。真念庵を参拝する時間や時折休憩をとりながら進むことを考えれば、山道に入るのは午後3時を回ったくらいになるだろうか。日没を午後5時くらいと想定すると、山中でどっぷり日が暮れてしまう確率は非常に高い。
「たしかにマズいでしょうね…。遭難したらどないしましょか…。ハハハ…。」
「いや、冗談もいいですけど、なるべくなら行かないほうがいいですよ。他のことならともかくね、真冬の時期に山道を夕方になって歩くっていうのは、やっぱりやめておいたほうがいいですよ。」
Nさんは本気で僕のことを心配してくれているらしい。
「状況を見ながら判断することにしますよ。上長谷(の分岐点・真念遍路道の入口)に着くのが、かなり遅くなったら、諦めてそのまま県道を進みますけども。午後3時までになんとか着けたなら…・、行っちゃうでしょうね。たぶん。」
「というか…。絶対行くつもりでしょ?!なにがあっても。なんか顔に出てますよ、『オレは絶対行くぞ』って…。」
ウッ…・。さすがはNさん…。鋭い観察力だ。
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午前11時13分、ドライブイン水車に到着した。土佐清水市と四万十市の境界線に程近いこの休憩所に僕は再び戻ってきたのだ。
「水車」と白い大きな文字の書かれた食堂の赤い屋根が妙に懐かしい。あれからまだ2日しか経っていないにもかかわらず…。ここで食べた丼飯の味が未だに鮮明に記憶に残っている。一昨日歩いた大岐への道程は、このドライブインを過ぎてからが正念場だった。そして、今日これから歩いていく道程も、この場所からが正念場となるだろう。
(せっかくやから、なんか食べていくか…。)
正念場を前にしての腹ごしらえといきたいところだが、食事を摂るにはまだ少し時間が早い。空腹感も全く無かったので、とりあえず休憩だけでもさせてもらおうと、食堂横のベンチへ向かった。
ベンチには若いお遍路さんが二人、身支度を整えながら、丁度出発しようとしているところだった。何となく見覚えのあるこの二人…。 いや…。 あれは、紛れもなく…!
(おおっ、あれはKさんとNさんやないかっ!!)
思わず声をかけると、「おお…」と二人共手を挙げて笑って出迎えてくれた。なんとかこの二人に追いつけたようだ。
「Nさん、やっぱりこちらの道を選びましたか…。」
少しニンマリした表情でNさんに訊ねると、
「いや、Kさんと歩いているうちに、なんだか自分も真念庵を見ておきたくなったんでね。…というか、今朝はどうも足の怪我が少し痛むんですよ。あまり調子がよくないみたいでね…。たぶん今日は独りで歩くのはきついんじゃないかなって思うんですよ。だれかと一緒に歩いたほうが、精神的にも楽だと思うんでね。そんなわけで今日一日、Kさんについていこうかなって決めたわけです。」
大丈夫かと少し心配になったが、隣で黙って頷いているKさんの顔を見ていると、不思議と安心感が湧いてくるのだった。
(この人が一緒やったら、大丈夫やろう。なんとかなるわ…。)
安定感抜群(僕の勝手に抱いているイメージだが)のKさんがいれば、Nさんも心強いだろう。
「ところで六根清浄さん(仮名)、やっぱり真念遍路道は諦めきれませんか?」
唐突なNさんの問いに一瞬戸惑った。「諦めきれませんか?」という言葉の中に「止めたほうがええぞ、考え直せよ」といったニュアンスが多分に含まれている気がしたのだ。他人の考えや方針を尊重し、決して自分の考えを押し付けないタイプのNさんにしては珍しいセリフだった。
「今のところは、まだ諦めきれませんねえ…。どんな道なのか、どうしても見ておきたいんですよねえ…。」
「うーん…。でも、真念遍路道っていうのは山道じゃないですか。この時間からだと、山道の途中で日が暮れちゃうんじゃないですかね…。さすがにそれはマズいと思いますけどね。」
Nさんの言うことはもっともだ。その可能性はかなり高い。ここから真念遍路道の入口にあたる三原村上長谷の集落へはおよそ10kmの距離があり、到着するのにおよそ3時間はかかるだろう。真念庵を参拝する時間や時折休憩をとりながら進むことを考えれば、山道に入るのは午後3時を回ったくらいになるだろうか。日没を午後5時くらいと想定すると、山中でどっぷり日が暮れてしまう確率は非常に高い。
「たしかにマズいでしょうね…。遭難したらどないしましょか…。ハハハ…。」
「いや、冗談もいいですけど、なるべくなら行かないほうがいいですよ。他のことならともかくね、真冬の時期に山道を夕方になって歩くっていうのは、やっぱりやめておいたほうがいいですよ。」
Nさんは本気で僕のことを心配してくれているらしい。
「状況を見ながら判断することにしますよ。上長谷(の分岐点・真念遍路道の入口)に着くのが、かなり遅くなったら、諦めてそのまま県道を進みますけども。午後3時までになんとか着けたなら…・、行っちゃうでしょうね。たぶん。」
「というか…。絶対行くつもりでしょ?!なにがあっても。なんか顔に出てますよ、『オレは絶対行くぞ』って…。」
ウッ…・。さすがはNさん…。鋭い観察力だ。
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