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歓楽街と巡礼

 僕が目指していたのは池袋2丁目にあるカプセルホテルだった。予算の関係上、どうしてもこの池袋での一泊は安値で抑える必要があったのである。その池袋2丁目に行くには駅の西口を出て大通りを西に向かってまっすぐ歩いていくのがよかったのだが、こともあろうにその大通りとは距離の空いた南口から出てしまったのだ。駅の構内の雑踏から逃れたくて、とにかく外に出たいと思いフラフラ歩いているうちに南口を見つけてしまったわけだ。一旦外に出てしまうともう方角の感覚が狂ってしまい、目的地とは全く違う方向にむけて歩きはじめていた。
 もう道に迷ってしまったといっていいのだろう。どっちがどの方角なのかさっぱりわからなくなっていた。見知らぬ土地で迷子になるという状況は通常は不安を掻き立てるものだが、最近は不安どころか無性にワクワクするのだ。出会ったことのない場所を歩く楽しさ、目的地を探すというまるで難解なパズルを解くような楽しさがある。効率良く目的地まで最短距離で行くよりも、迷いながらあちこち歩いたほうが初めて出会った場所との縁も深まるというものではないか。
 30分ほどウロウロしているうちに池袋2丁目への行き方がわかってきた。「解けた、解けた!」とパズルをクリアしたようなささやかな達成感が湧いてくる。当人としては気分よく街中を歩いていたのだが、傍から見れば「大きなリュック背負って街中ブラブラして・・・、この人って一体?」といったかんじだったのかもしれない・・・。  

 池袋警察署や東京芸術劇場を通り過ぎると、やがて大きな交差点に出る。この辺りは雑居ビルなども多く、とにかく賑やかなエリアだ。三連休の期間中ということもあって、多くの人が通りに溢れていた。特に若い人たちの姿が目に付く。交差点を西へと折れ更に細い路地に入る。狭い通りに飲み屋さんが立ち並び、車や人がひしめきあっている。そんな都会の路地裏の景色の中に探していたカプセルホテルはあった。
 フロントで宿泊の手続きをしロッカーに荷物を置くと、夜食を摂りに再び夜の街へと繰り出した。先ほど通った大きな交差点に戻り、手頃な食堂を探しながら駅のある方角に向けて歩いていく。遅い時間帯にもかかわらず、街は活気に溢れていた。こんな夜の空気に触れるのも久しぶりだ。
 夜食を済ませカプセルホテルへ帰る途中にふと、四国の徳島の夜の街を思い出した。巡礼に向かう前夜に夜食を摂りに歓楽街をブラブラ歩いていたあの時の行動と今の自分の行動とが妙に重なり合うからだろうか。

 (巡礼のはじまりはいつも歓楽街から・・・。そんなかんじやなあ・・・。)

 思いおこせば、初めて四国遍路をしに徳島を訪れた時も最初に自分を迎えてくれたのはあの歓楽街だった。あの街から僕の四国巡礼の旅は始まったように思える。そして今回の秩父巡礼の旅も、この池袋の夜の街から始まるのだと言えるだろう。巡礼の世界と歓楽街。一見、対極的とも思えるこの2つの世界が、僕の行う巡礼の旅の中ではいつも一括りとなる。その組み合わせが妙に面白い。なんだか自分らしくて笑える。


 翌朝の起床は8時前となった。予定では遅くても6時半には出発するつもりでいたのだが完璧に寝坊してしまった。まあ巡礼の初日は毎回こんなものである。寝過ぎてしまったものはしょうがない。ホテルを出発して駅の方角へ向かって朝の街の通りを歩く。
 街は夜とはまた違った表情を見せている。あの妖しげで異様なパワーを振りまいていた街の表情は何処へやらといった感じだ。ただ通りにはやはり様々な多くの人達が行き交っていた。

 街には多種多様なものが存在している。多くの人達が抱える様々な思い・・・、喜びや悲しみ・妬みや怒り・優しさや希望。新築された建物もあれば朽ち行く建物もある。色々なものが混在する街の景色。それは人間の本質が作り出した人間臭い景色といえる。そこには人の心の織り成す「曼荼羅」のようなものがあるのかもしれない。

 そんな街の景色に別れを告げながら、池袋駅西口へと脚を急がせた。 

 池袋の朝


『全ての人間に仏性というものが備わっているならば、この街の景色も仏の作り出した世界と言えるのだろうか・・・。様々な人の「業」が街を動かし、その中で人は成長してゆく。「街」という世界は人というものを改めて教えてくれる。』