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 11番札所藤井寺への道程は僕の持っていたガイドブックでは10km、『四国遍路ひとり歩き同行二人』(へんろみち保存協力会編)では9.3kmと表示されている。3時間もかからない距離だろう。遍路慣れしていない当時の僕にとってはこの3時間弱という道程は歩き応えのあるものに思えた。1番札所霊山寺からここまで、札所間の距離は短く、最も長いものでも5km程で歩行時間も1時間半にも満たなかった。言わばここまでは遍路の入門コースといったところなのかもしれない。10番札所切幡寺を境に、それから先は札所間の距離はぐっと伸びてくる(13番大日寺から17番井戸寺にかけての区間はそれほど距離も開いてはいないが)。ここからが本格的な歩き遍路のはじまりになるのではないだろうか。2007年8月の遍路の旅は本当の「歩き遍路」というものに出会う旅となった。その最初の洗礼を浴びたのが、この藤井寺までの道程だった。

 県道237号線を南下、吉野川を渡り阿波市から吉野川市へ入る。県道240号線をひたすら歩き最後は少し山道っぽい道を経て藤井寺へ至るのだが、その道中の殆どはアスファルトの道を歩くこととなる。これまでの遍路道も大概はアスファルトの道ではあったが、真夏の猛暑の中を重い荷物を背負ってアスファルトの道を3時間近く歩くのは当然のことながら今回が初めての体験となる。放射熱が容赦なく体の水分を奪うだろう。暑さ対策には充分気をつけなければならない。水分の補給はもちろんのこと、適度な休憩もはさみながらあまり速度をあげて歩かないことが大切だろう。時間はたっぷりあるのだから、3時間以上はかけるつもりでゆっくり歩いて行こうと思っていた。


 237号線を進む。時間はそろそろ昼の1時をまわろうとしていた。そういえば、昼食をまだ摂っていない。少しお腹が空いてきた。やはり食べるものは食べておかないと夕方までしっかり歩くことができるかどうか心配だ。どこか適当な場所で食事にしなければ・・・、と思いながら歩いていたものの、空腹感よりも先に喉が渇きが気になって仕方がない。無性に暑い。ザックのサイドポケットにつっこんでいたペットボトルを取り出し水を少し口に含んだ。暑さのせいで、もう既にぬるくなってはいたが、やはりおいしい。こうやって少しづつ水分を摂るのがいいのかもしれない。一気に飲むと後でトイレが必要となってくるだろう。道中、早々うまい具合にトイレがあるわけでもないので一気飲みは控えてタイミングをみて少しずつ水を飲むようにした。

 切幡寺までの道ではあのおっちゃん以外は全く見かけることのなかった歩き遍路の姿が、ここにきてようやく何人か目にすることができるようになった。やはりこういった「同士」の姿が多いと安心する。

 (ああ、今の道で間違いないんやな・・・。みんなも歩いてはるし・・・。)

 (暑いけど、みんな頑張って歩いてはるな・・・。自分も頑張らんと・・・。)

 仲間の姿は励みにもなる。そしてそれはお互い様ということかもしれない。僕の歩いている姿も他の人に元気を与えているのかも・・・。もしそうだとしたらとてもうれしいことだ。こうやってひとりひとりが懸命に歩くことで知らず知らずのうちに元気というものを与えたり与えられたりしている。それだけで「援け合い」というものが成立しているのかもしれない。

 印象的だったのが前を歩いていた初老の夫婦のお遍路さん。お揃いでお手製の杖をつきながら同じペースを守って仲良く歩いておられる。見ていてなんとも微笑ましい。途中、脚を止められた奥さんを旦那さんが気遣う場面もあった。こういう夫婦像っていいな、こういう歳の重ね方って素敵だなと思った。

 
 県道12号線との交差点で右手にうどん屋さんを発見。ここらで食事を摂るかなと思っていると、周りを歩いていた人達も同じことを考えていた様子。皆、うどん屋さんの方角に向かって歩いて行かれる。僕もその後に従って歩いて行く。皆で交差点を渡りうどん屋へ・・・。まるで団体歩き遍路御一行のような様相だ。店先で中の様子を窺うと、とんでもない混雑ぶり。席が空くのを待っているお客さんもけっこういらっしゃった。

 (こりゃ、あかんわ・・・。)

 まともに待っていては、30分以上は掛かりそうだった。時間に余裕はあるものの、こういった脚止めは避けたかった。待ち時間と食事をする時間を考えると此処で1時間は費やしてしまうこととなるだろう。そうなると、此処を出た後にそれなりにペースを上げて歩くことになってしまう。長い時間冷房の効いた店内にいたせいで、脚の筋肉も硬くなって歩くのがつらくなるだろう。暑さもますます厳しく感じられるだろう。それはちょっと困る。

 ここは諦めるのが賢明だ。踵を返して遍路道へと戻る。今のペースを守ってこのまま歩いて行くのが最善に思えた。この先にスーパーでもあればパンでも買って食べるほうがいいだろう。食事も適量のほうが歩くのに負担にならない。
 
 結局、うどん屋を去ったのは僕一人だった。他のみなさんは席の空くのを待たれるようだった。

 (みなさん、我慢強いな・・・!!)

 「我慢」の問題なのだろう、早い話が。長い時間順番を待つということが苦手なのである、僕という人間は。

 
 また暫くは歩き遍路の姿を見かけることのない時間の中を歩いた。

 
 これ以降、この日に昼食を摂ったという記憶は僕にはない。スーパーのような店もこの先にあったような気もするが、恐らくそのまま素通りしてしまっていたのではないかと思う。水分を補給したりしているうちに空腹感が薄れてしまっていたのではないだろうか。歩くことに夢中になって食事がどうでもよくなっていたのだろう。考えてみれば、とても危険な状態で遍路をつづけていたようである・・・。よくやったものだと今にして思う。褒められたこととは到底言えないが。