気ままに歩いて候。

あせらず、くさらず、歩いていきましょう。 2007年5月の連休から始めた区切り打ちの四国歩き遍路の思い出を綴った記事を中心に掲載しています。

2009年04月

冬遍路 〜足摺岬・宿毛へ〜  (18)

2008年12月31日 下ノ加江〜市野瀬(その2)


市野瀬に向かって歩く







【市野々分岐点を過ぎ市野瀬に向かって歩く】



 市野々分岐点から市野瀬までの道すがら、何人かのお遍路さんと擦れ違った。いずれも僕とは進行方向が逆で、足摺方面へ歩いている方達だった。挨拶を交わすだけの人もいたし、脚を止めて少しばかり会話をした人もいた。中でも特に印象に残っているのが次の御二人だ。


 はるか前方から、一人の中年男性(熟年男性といったほうが正しいか?)がこちらに向かって歩いてくる。どこか歩く姿勢が不安定でヨロヨロしながら前へと進んでいる。まあ、そんな人もいるわなと最初は気にもとめなかったが、距離が近くなるにつれて徐々に容貌が掴めてきた。グレーの上着にズボン、頭には同じ色のキャップ帽。どこかで見たスタイルだ。
 (ああ、あれだ。工場なんかで作業員の人が身につけているものだな…。)
 地元で働く職工さんだろうか。仕事の合間になにか急な用事ができて家に戻られる途中なのか…。いや、そうではなく夜間勤務をされている方なのかもしれない。フラフラになるぐらいに仕事が立て込んでいて、勤務時間が終わってからもすぐに帰宅する元気もなく会社でウダウダやっているうちに、いつの間にか日も高くなってしまった…。「そろそろ帰りますわ!」と会社を出たのはいいが、疲労困憊で足元もおぼつかない…。「なんとか頑張ろう…、家まであと少しだ…。」と自分を奮い立たせながら頑張って歩いておられる…。

 …とか??

 しかし、よくよく考えれば、今日は大晦日だ。いくらなんでも大晦日は全国的に休日だろう…。でも、この不景気な御時世だ。大晦日なんていってられない会社だってあるだろう…。大変だな…。寒い時代だな…。  

 …などと、勝手な想像を進めているうちに、男性との距離は更に縮まってきた。どうやら、手に何かを持っておられるようだ。長い棒のようなものを水平にして背中に当てている。そしてその両端を左右の手で握りながら歩いておられる。なんだろう、あの棒は…。
 男性の顔がはっきりわかるくらいに距離が縮まったときに、ようやく何なのかがわかった。棒というより、あれは杖だ。金剛杖ではないか…。ひょっとしてお遍路さん…??

 「こんにちはー。」

 分厚い眼鏡をかけ、少し小太りな体型のおじさんだった。笑顔で挨拶をしてくれたのはいいが、その表情には覇気というか元気というものが感じられない。かなりお疲れの様子だった…。

 「こ、こんにちは…。」

 少したじろぎながらも挨拶を返した。まさか、お遍路さんだったとは…。昨年から区切り打ち遍路を始めてより此方、これまでも何人かの個性的な人達に出会ってはきたが…。作業服でお遍路をされている方に出会ったのはこれが初めてだった。
思わず脚を止める。こういう方を見ると、ついついお話を聞きたくなってしまうのだ。物珍しさなどでは決してない。むしろ、言いようもない親近感からだといったほうがいいだろう。個性的といわれる方というのはなにかと世間では「変わり者」扱いされてしまうが、見方を変えれば立派に自分の色というものを世間に提示しているわけで、その姿勢は小心な人間には決して真似はできない。つまらない世間の風評など気にもとめず、自分自身を貫き通すその在り様は尊敬すべきものだ。僕はこういった人達は好きだし、かく言う僕自身も昔から知人に「あんたは変わってんなあ…」と言われつづけてきた人間なのである。「のんびりしてる」、「天然入ってる」、「悩みなんてなさそうだ」などと色々言われてきたが…。自分では至って普通だと思ってはいるが、周囲の人間からは個性的な人種に見えるらしい。「類は類を呼ぶ」ではないが、こんな性格だからこそ、個性の強い人に対しては親近感を抱いてしまうのだろう。

 「今日は何処まで歩かれるんですか?」と訊ねてみると、

 「いやあ…、とくに何処までとは決めてませんねえ…。まあ、行けるところまで…。できれば以布利あたりまで歩ければいいとは思ってるんですけど、見てのとおり、もうフラフラで…。明け方から、ぶっとおしで歩いてきたんでね…。多分、以布利までは無理だろうなあ…。」

 話を聞いているうちに、(このおっちゃん、大丈夫かいな?)と心配になってきた。明るく振舞ってはおられるが、話す言葉や表情には全く元気がない。通し打ちのお遍路さんなのか…?徳島から何日もかけてここまで歩いてきて、ついにスタミナが切れたのか…?

 「いや、自分は区切り打ちです。今日が2日目なんですけどね…。」

 そうか、じゃあオレと同じやなあ…。2日目でこの状態だと、昨日よほど無理なペースで歩きすぎたか、はたまた歩くことにあまり慣れていらっしゃらないのか…。

 「うーん、以布利はここからだと通しで歩いても4時間以上はかかりますねえ…。ちょっとキツいかもしれませんね。」

 少し大袈裟に言ってみた。実際には4時間はかからないかもしれない。しかし、この男性の体調を考えると、4時間で行けるかどうかも怪しく思えてくる。無理をせず、何度か休憩を入れながら、ゆっくり行かれるのが最善に思えたので、お節介とは知りながらもそうするように言ってみた。男性も「そうですね、そのほうがいいですね」と笑って応じてくださった。
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冬遍路 〜足摺岬・宿毛へ〜  (17)

2008年12月31日 下ノ加江〜市野瀬〈その1〉


下ノ加江のコンビニ










 【下ノ加江のコンビニと民宿「安宿」】


 NさんとKさんを見送りコンビニで用件を済ませた後、早速、宿毛のビジネスホテルにキャンセルの電話を入れた。
 『そうですか。ではまたの御利用を心待ちにしております…。』
 ホテルの受付の女性の声は事務的というか機械的というか、淡々としたものであった。お詫びの言葉を述べ電話を切る。一度予約を入れた宿をキャンセルするというのは、どうもバツが悪い。自分的には申し訳ない気分になるし後味も良くない。しかし、「機械的な」女性の声がそんな気持ちを幾分和らげてくれたように思える。
 続けて、NさんとKさんが予約を入れた民宿Sに電話を入れる。電話に出たのは、かなりしわがれた声のおばあさんだった。宿の大女将だろうか…。
  『…ああ、お遍路さんね。…おひとりですね。…はいはい、大丈夫ですよ。お部屋は空いていますから。お待ちしておりますよ。…遅くなるかもしれないんですか?大丈夫ですから気をつけておいでくださいねぇ。』
 ホテルの受付の声とは対照的な、なんとも人間味あふれる応対…。そのギャップの差が何気に可笑しかった。やっぱり民宿は暖かさがあっていいものだ。


 しばらく休憩した後に、再び荷物を背負ってコンビニを発ったのが午前10時過ぎ。下ノ加江大橋を渡って川の西側に出るつもりだったが、結局やめて東側の道を北へ進む。ある程度北へ歩いた場所に橋があった筈だと記憶していたからだ。西側の道へ出るのは、その橋を渡ってからでもいいだろうと思いながら、のんびり川を眺めながら歩いていく。
 NさんとKさんはだいぶ先に進んでしまったようで、遥か先まで眺めてみても二人の姿は見えなかった。それにしてもあの二人、うまく落ち合えたものだ…。偶然だったのだろう。二人共、連絡をとりあって一緒に歩くタイプではないように思われる。たまたま、どこかでバッタリ出くわした結果、「それじゃあ、今日も一緒に歩きますか」という流れになったのではないか。そうして、一緒に歩いている間に「みんなで年越し飲み会やりましょ!」という話しが湧いて出てきたのだろう。
 Kさんが僕よりも1時間早く大岐を出発した。そのKさんにうまく合流したNさんも大岐を出発したのは早い時間だったかもしれない。そんな彼らに僕が追いついてしまったのも、不思議な偶然だったと言える。僕は下ノ加江までペースを上げて急いで歩いていたわけでもないし、彼らにしても、よもや僕が追いついて来るのを待つためにのんびり歩いていたわけでもあるまい。下ノ加江のコンビニで休憩しているときに、「ひょっとしたら六根清浄さん(仮名)がそろそろ此処に到着するんじゃないかな?」とふと考えているうちに僕が現れた…、そんな感じだったのではないだろうか。
 それにしても足を負傷しているNさんはさておき、Kさんはもっと先を進んでいると思っていただけに下ノ加江での遭遇は本当に意外だった(Kさんは翌日の元旦の朝にも予想外な動きをとることとなるが、それはまたのちの話で)。
 あの二人、この先もタッグを組みながら歩いていくのだろうか…。もしそうなら、仮にまた僕が追いついた場合は三人一緒にまた歩けることとなるのだが…。しかし残念ながら、二人はこの先で別れることになるだろう。昨日、Nさんはたしか県道21号線を進んで三原村に入ると言っていた。つまり、この先にある橋を渡って川の西側の道に出て県道へ入ったものと思われる。既に二人は行動を別にしてしまっているのかもしれない。
 しかし、県道21号線を通るルートは宿毛市に入るのには近道のように思われるが、実際はそうではないようだ。へんろみち保存協力会の地図によれば、38番札所金剛福寺から39番札所延光寺までの距離について、『下ノ加江三原経由 52.8Km  市野瀬三原経由 50.8km』と記されている。遠回りに思われる市野瀬から三原村に入るルートのほうが実は近道なのだ。県道21号線は複雑に蛇行している道のようで、カーブの多い分、距離が長くなっているようだ。Nさんは「県道21号線を行くほうが近道なんで…」と言っていたが、それが勘違いだったことは彼も昨晩地図を眺めながら気付いたにちがいない。気付いていたとすれば、彼は市野瀬経由の道を選ぶのではないか。今もひょっとしたらKさんと別れずに市野瀬に向かって歩いているかもしれない…。


 下ノ加江川に沿って桜並木がつづいている。春になれば、並木には一斉に花が咲き乱れることだろう。華やかな桜色が、この道の景色を様変わりさせるにちがいない。並木の向こう、川を隔てた西側には穏やかな農村の風景が広がっている。さらにその後ろには鮮やかな緑色をした山々が連なっている…。いい眺めだ。今目の前に広がる景色も申し分なく素晴らしいのだが、欲を言えば、春の景色が見たかったなと思う。いつの日かまたこの場所を訪れるときがあるならば、是非春の時期を選んでやって来ようかなと当てにもならないことを考えながら歩く。


川沿いの並木川の東側の車道を北へ進む






                        【川沿いにつづく並木】               【東の車道をそのまま北へ】


 並木も途絶え、道は若干登り勾配となる。さらに進んでゆくと、いつしか川を見下ろせるくらいの高さになっていた。眼下に広がる下ノ加江川の眺めは素晴らしいものだった。上空の青い空を川面に映しながら穏やかでゆったりとした流れが視界の彼方へとつづいている。山々の緑と空・川の青のコントラストがとても美しく、その景色の魅力にしばらく取り付かれながら、ボーッと歩いていた。
 (おとつい歩いた時は全く気づかんかったなあ。こんなにええ眺めやったなんて…。)
 一昨日はNさんとの会話に夢中で、この辺りの景色はあまり目に入らなかったようだ。こうやって、見逃してしまった景色と再び出会えることは打戻りのコースならではの収穫といえるだろう。


国道から下ノ加江川を眺めて1国道から下ノ加江川を眺めて2
 





  【車道から下ノ加江川を眺めて】


それはそうと…。景色に見惚れながら東側の道をどれくらい歩いただろうか。西側へ渡る橋のある場所をとっくに通り越してしまっていることに気がついた。
 (ありゃー…。ひょっとして、もう少しで西側の道と東側の道の合流点とちがうか…!結局、あっちには渡れへんかったか…。)
 …仕方ない。諦めて先を進むことにしよう。素晴らしい景色も充分堪能できたわけだから、これはこれでよかったということにしておこうか…。
 
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冬遍路 〜足摺岬・宿毛へ〜  (16)

2008年12月31日 下ノ加江にて

 (Nさん、Kさん…!!まさか、こんなところで会えるとは…。しかも、二人揃って…。)

 全く意外な展開だった。この二人、既にもっと先まで進んでいるだろうと思っていただけに、まさか大岐から歩いて2時間足らずの下ノ加江で出会うとは考えてもみなかったのだ。しかも、二人一緒だったとは…。
 Nさんとは、昨日宿の前で別れたときから「たぶんこの人とはまた何処かで出会うことになるだろう」という予感がしていたことは以前にも述べたが、まさか、こんなに早く出会えるとは思ってもみなかったし、またKさんに関しては宿を出発したのが僕よりも一時間も早かったのだ。健脚で黙々と歩くタイプのKさんはかなり先を進んでいるものと思っていたし、宿毛に辿り着くまで、この人と会うことはまず不可能だろうとタカをくくっていたのだが…。
 しかし、なんにせよ、こうしてまた二人と巡り会えたのは嬉しいことだった。歩みを速めながら、二人の座るベンチの方へ向かう。Kさんが僕に気がついたらしく、それとなくNさんに声をかけていた。ゆっくりと顔を上げてこちらを見るNさん。その表情はどこか飄々としていた。それはKさんも同じで、どうもこの二人、僕がそろそろ下ノ加江に着く頃だろうと予測していたようだった。

 「あー!!おはようございます。まさか、こんなところで二人に会えるなんて思ってませんでしたねー…。」

 こちらの挨拶を笑顔で聞く二人。そして、挨拶が終わると間髪入れずにいきなりNさんが、

 「…六根清浄さん(仮名)、じつはKさんと今話してたんですがね。せっかくこうやって三人が知り合えたわけだから、今晩は同じ宿にみんなで泊まって盛大に年越しの飲み会でもやりませんか?」

 突然の二人の提案に、またも意表を突かれることとなった。Kさんはともかく、Nさん…、アンタ野宿遍路だったんじゃ…?

 「いやぁー、昨日まではね。延光寺近くの駅で野宿するって言ってましたけどね!今日って、大晦日じゃないですか…。延光寺へ初詣する地元の参拝客の方で駅の構内けっこう混雑するんじゃないかって思うんですよね。落ち着いて寝られないと思うんですよ。だから…。たまには宿泊まりもいいかなって。せっかくの大晦日なんだし、できることなら御二人と賑やかに年を越すほうがいいかなって思いましてね…。」

 そうだった。昨日、Nさんは延光寺に比較的近い平田駅(土佐くろしお鉄道)で野宿すると言っていた。さる情報によれば平田駅は綺麗な駅で野宿ポイントとしては申し分のない場所らしいと、たいそう喜んでいた…。しかし、今日は大晦日。参拝客で混雑することも充分ありえるし、それ以上に気になるのは年越し気分に浮かれた若者達が夜通し駅付近でバカ騒ぎすることだってありえる。無いとは思いたいが、万が一の「身の危険」ということも考えておいたほうがいい。

 傍でNさんの話すのを聞いていたKさんが一声、「是非、みんなで年を越しましょう!!」と気合を入れておっしゃる。 …うーむ、いい提案なんだが。

 「…じつは今夜の宿、もう決めてしまってるんですよね。宿毛駅のそばのビジネスホテルに…。」
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六根清浄

1969年4月20日生まれ

京都市在住
2007年5月から始めた区切り打ち四国歩き遍路も4年目をもちましてようやく結願いたしました。支えてくださった皆様に感謝です。2巡目の構想も視野に入れながら、さらに日本の各地を「歩き旅」で訪れてみたいと考えています。自称『歩き中毒患者』(笑)


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