9番札所法輪寺から10番札所切幡寺までの距離は「四国遍路ひとり歩き同行二人 地図編」(へんろみち保存協力会編)によれば3.8kmとなっている。時間にして1時間程度の道程だろう。これに対して、当時僕が持ち歩いていたガイドブックには「5km 歩き1時間20分」と記されていた。なんと1kmもの違いがあるのである。何故にこんなに違いがでるのか気になるところではあるが、それはさておき、この本だけを頼りに遍路をしていた当時の僕にとっては、切幡寺までの道程は結構歩き応えのある距離に思えたのだった。
(5km・・・。たしかに1時間20分はかかるやろうなあ・・・。それに久しぶりに遍路道を歩くわけやし、それ以上かかるかもしれへんなあ・・・。)
切幡寺には有名な厄除けの石段がある。なんと333段もあるそうだ。境内へたどり着くにはこの石段を登り切らねばならない。平地を歩くことにはそれなりの自信はあったものの、こういった長い階段や急な山道を登ることには苦手意識があった。
(あとで石段上がったりすることを考えたら、あんまり飛ばして歩くのも考えものやな。ちょっと控え目のペースで歩くことにしよかな。なにしろこの暑さやしな・・・。)
なんといっても、今回の遍路の旅で心がけなければならないのは、暑さ対策である。空を見上げれば相変わらずの晴天であり日差しが強い。典型的な真夏日である。今回持参した菅笠はやはりこういった炎天下にはなくてはならないものだろう。前回の遍路は菅笠なしであった。荷物になると思っていたし、あまりお決まりのお遍路さんスタイルには拘りたくなかったのだ。今回は色々な事情を考えた結果持参したのだがどうやら正解だったようである。
広々とした田園地帯の中を歩いていく。ペースは抑え目。切幡寺の石段を登る心配もさることながら、それ以上に頭を占めていたのは明日のことである。12番札所焼山寺までの山道。通常は7時間ないしは8時間かかると言われるこの難所を一体自分はどれくらいの時間をかけて歩くことができるのだろう。そして13番札所大日寺へ至る下山道。明日一日でこれらをクリアしなければならない。ガイドブックには「藤井寺から焼山寺まで 歩き13km 6時間」「焼山寺から大日寺まで 歩き22km 7時間」と記されている。トータルで35km、13時間の道程だ。しかも殆どが山道である。山登り経験もあまりない自分が本当にそれだけの道程を一日でクリアできるのだろうか?しかも泊まる宿も碌に決めていないのだ・・・。
(・・・・今、考えるのはやめとこう。・・・・なるようになるやろ。)
気が重くなるだけなので考えるのをやめた。とにかくできることは明日に備えて最良のコンディションを作っておくことだ。今日はあまり無理なペースで歩かず、適度な刺激を脚の筋肉に与える程度にしておこう。のんびり行くのがいいだろう。あまり無理をして今日一日の歩行で筋肉痛を起こしてしまってはそれこそ一大事だ。
刺すような日差しがアスファルトの道に降り注ぐ。照り返す放射熱が更に暑さの度合いを増す。炎天下の田園地帯を杖を突きつつ黙々を歩く。
前方に一人の歩き遍路の姿が見える。緑のザックを担ぎ、少し小さめの菅笠を頭に乗せた初老の男性。周りの景色を眺めながらも、どうしても視界に入ってくるその男性の姿。僕とこの人の他に遍路姿でこの道を歩いている人影はなかった。真夏に歩き遍路をする人は少ないと話には聞いていたが、そんなものなんだろうか・・・。確かに今日のような炎天下に重い荷物を背負って長時間歩く人間というのは余程の変わり者と言われても仕方ないだろう。やってることは限りなく自殺行為に近いものがある・・・。
(ああ・・・、やっぱり俺って変わり者なんやろか・・・。前々から色々な人に言われてきたけど、やはりそうなんやろか・・・。という事は、前を歩いているあのおっちゃんも変わり者なのかもしれんなー・・・。)
暑さと荷物の重さ、加えてなんとも眺めのいい田園風景を眺めていたせいで、少し朦朧とした意識の中でそんなことを考えていた。
すると・・・。
「こんにちはっ!!!」
いきなり威勢のいい声が背後に響いた。
「こ、こんにちは・・・!!」
慌てて後ろを振り向くと・・・・。
車輪の小さな自転車を懸命に走らせるお遍路の姿があった! ・・・女の子である。
恐ろしい速度で僕の真横を通り抜けていった。この炎天下にあの凄まじいパワーは一体・・・。
(な、なんじゃ ありゃ・・・!!)
この女の子、これからの旅の途上で度々僕の前に姿を現わすこととなる。自転車と共に・・・。そして、毎回度肝を抜かれることとなるのだ。
そして、前を歩いている初老の男性。これより後日、僕はこのおっちゃんに助けられることとなるのである。今回の遍路の旅の恩人となる人なのだ。
これがこの2人との最初の出会いであった。よもや、そんな「御縁」で結ばれていようとは想像もしていなかったこの時の僕であった。「御縁」のはじまりであった・・・。
(5km・・・。たしかに1時間20分はかかるやろうなあ・・・。それに久しぶりに遍路道を歩くわけやし、それ以上かかるかもしれへんなあ・・・。)
切幡寺には有名な厄除けの石段がある。なんと333段もあるそうだ。境内へたどり着くにはこの石段を登り切らねばならない。平地を歩くことにはそれなりの自信はあったものの、こういった長い階段や急な山道を登ることには苦手意識があった。
(あとで石段上がったりすることを考えたら、あんまり飛ばして歩くのも考えものやな。ちょっと控え目のペースで歩くことにしよかな。なにしろこの暑さやしな・・・。)
なんといっても、今回の遍路の旅で心がけなければならないのは、暑さ対策である。空を見上げれば相変わらずの晴天であり日差しが強い。典型的な真夏日である。今回持参した菅笠はやはりこういった炎天下にはなくてはならないものだろう。前回の遍路は菅笠なしであった。荷物になると思っていたし、あまりお決まりのお遍路さんスタイルには拘りたくなかったのだ。今回は色々な事情を考えた結果持参したのだがどうやら正解だったようである。
広々とした田園地帯の中を歩いていく。ペースは抑え目。切幡寺の石段を登る心配もさることながら、それ以上に頭を占めていたのは明日のことである。12番札所焼山寺までの山道。通常は7時間ないしは8時間かかると言われるこの難所を一体自分はどれくらいの時間をかけて歩くことができるのだろう。そして13番札所大日寺へ至る下山道。明日一日でこれらをクリアしなければならない。ガイドブックには「藤井寺から焼山寺まで 歩き13km 6時間」「焼山寺から大日寺まで 歩き22km 7時間」と記されている。トータルで35km、13時間の道程だ。しかも殆どが山道である。山登り経験もあまりない自分が本当にそれだけの道程を一日でクリアできるのだろうか?しかも泊まる宿も碌に決めていないのだ・・・。
(・・・・今、考えるのはやめとこう。・・・・なるようになるやろ。)
気が重くなるだけなので考えるのをやめた。とにかくできることは明日に備えて最良のコンディションを作っておくことだ。今日はあまり無理なペースで歩かず、適度な刺激を脚の筋肉に与える程度にしておこう。のんびり行くのがいいだろう。あまり無理をして今日一日の歩行で筋肉痛を起こしてしまってはそれこそ一大事だ。
刺すような日差しがアスファルトの道に降り注ぐ。照り返す放射熱が更に暑さの度合いを増す。炎天下の田園地帯を杖を突きつつ黙々を歩く。
前方に一人の歩き遍路の姿が見える。緑のザックを担ぎ、少し小さめの菅笠を頭に乗せた初老の男性。周りの景色を眺めながらも、どうしても視界に入ってくるその男性の姿。僕とこの人の他に遍路姿でこの道を歩いている人影はなかった。真夏に歩き遍路をする人は少ないと話には聞いていたが、そんなものなんだろうか・・・。確かに今日のような炎天下に重い荷物を背負って長時間歩く人間というのは余程の変わり者と言われても仕方ないだろう。やってることは限りなく自殺行為に近いものがある・・・。
(ああ・・・、やっぱり俺って変わり者なんやろか・・・。前々から色々な人に言われてきたけど、やはりそうなんやろか・・・。という事は、前を歩いているあのおっちゃんも変わり者なのかもしれんなー・・・。)
暑さと荷物の重さ、加えてなんとも眺めのいい田園風景を眺めていたせいで、少し朦朧とした意識の中でそんなことを考えていた。
すると・・・。
「こんにちはっ!!!」
いきなり威勢のいい声が背後に響いた。
「こ、こんにちは・・・!!」
慌てて後ろを振り向くと・・・・。
車輪の小さな自転車を懸命に走らせるお遍路の姿があった! ・・・女の子である。
恐ろしい速度で僕の真横を通り抜けていった。この炎天下にあの凄まじいパワーは一体・・・。
(な、なんじゃ ありゃ・・・!!)
この女の子、これからの旅の途上で度々僕の前に姿を現わすこととなる。自転車と共に・・・。そして、毎回度肝を抜かれることとなるのだ。
そして、前を歩いている初老の男性。これより後日、僕はこのおっちゃんに助けられることとなるのである。今回の遍路の旅の恩人となる人なのだ。
これがこの2人との最初の出会いであった。よもや、そんな「御縁」で結ばれていようとは想像もしていなかったこの時の僕であった。「御縁」のはじまりであった・・・。