2009年04月10日

冬遍路 〜足摺岬・宿毛へ〜  (16)

2008年12月31日 下ノ加江にて

 (Nさん、Kさん…!!まさか、こんなところで会えるとは…。しかも、二人揃って…。)

 全く意外な展開だった。この二人、既にもっと先まで進んでいるだろうと思っていただけに、まさか大岐から歩いて2時間足らずの下ノ加江で出会うとは考えてもみなかったのだ。しかも、二人一緒だったとは…。
 Nさんとは、昨日宿の前で別れたときから「たぶんこの人とはまた何処かで出会うことになるだろう」という予感がしていたことは以前にも述べたが、まさか、こんなに早く出会えるとは思ってもみなかったし、またKさんに関しては宿を出発したのが僕よりも一時間も早かったのだ。健脚で黙々と歩くタイプのKさんはかなり先を進んでいるものと思っていたし、宿毛に辿り着くまで、この人と会うことはまず不可能だろうとタカをくくっていたのだが…。
 しかし、なんにせよ、こうしてまた二人と巡り会えたのは嬉しいことだった。歩みを速めながら、二人の座るベンチの方へ向かう。Kさんが僕に気がついたらしく、それとなくNさんに声をかけていた。ゆっくりと顔を上げてこちらを見るNさん。その表情はどこか飄々としていた。それはKさんも同じで、どうもこの二人、僕がそろそろ下ノ加江に着く頃だろうと予測していたようだった。

 「あー!!おはようございます。まさか、こんなところで二人に会えるなんて思ってませんでしたねー…。」

 こちらの挨拶を笑顔で聞く二人。そして、挨拶が終わると間髪入れずにいきなりNさんが、

 「…六根清浄さん(仮名)、じつはKさんと今話してたんですがね。せっかくこうやって三人が知り合えたわけだから、今晩は同じ宿にみんなで泊まって盛大に年越しの飲み会でもやりませんか?」

 突然の二人の提案に、またも意表を突かれることとなった。Kさんはともかく、Nさん…、アンタ野宿遍路だったんじゃ…?

 「いやぁー、昨日まではね。延光寺近くの駅で野宿するって言ってましたけどね!今日って、大晦日じゃないですか…。延光寺へ初詣する地元の参拝客の方で駅の構内けっこう混雑するんじゃないかって思うんですよね。落ち着いて寝られないと思うんですよ。だから…。たまには宿泊まりもいいかなって。せっかくの大晦日なんだし、できることなら御二人と賑やかに年を越すほうがいいかなって思いましてね…。」

 そうだった。昨日、Nさんは延光寺に比較的近い平田駅(土佐くろしお鉄道)で野宿すると言っていた。さる情報によれば平田駅は綺麗な駅で野宿ポイントとしては申し分のない場所らしいと、たいそう喜んでいた…。しかし、今日は大晦日。参拝客で混雑することも充分ありえるし、それ以上に気になるのは年越し気分に浮かれた若者達が夜通し駅付近でバカ騒ぎすることだってありえる。無いとは思いたいが、万が一の「身の危険」ということも考えておいたほうがいい。

 傍でNさんの話すのを聞いていたKさんが一声、「是非、みんなで年を越しましょう!!」と気合を入れておっしゃる。 …うーむ、いい提案なんだが。

 「…じつは今夜の宿、もう決めてしまってるんですよね。宿毛駅のそばのビジネスホテルに…。」


 四国へ渡る一週間前に、既に今夜の宿を予約しておいたのだ。延光寺からは西へ8kmも離れたビジネスホテルである。何故にそんな所に…?何故にビジネスホテルに…?普通に考えてみても少し妙な宿の押え方をしているとは思う。しかし、なにも好きこのんでそうしたわけではない。それなりに考えがあってのことだったのだ…。
 大晦日の遍路が距離的にも体力的にもきついものになるであろうことは、旅のプランを練っていた段階からわかってはいた。果たして、宿入りできるのが何時頃になるのか…。遅い時間になることは想像できるのだが、その具体的な時間の見当がつかない。これまでの遍路の旅では、そういった日には大抵ビジネスホテルに宿をとっていた。ビジネスホテルに素泊まりという形で宿を押えておくと、遅い時間でもチェックインできるという安心感から比較的楽な気分でその日の遍路ができる。ただ、夜食については、どこかで買い込むなり手頃な食堂で済ませるなり、自分なりに手配する必要がある。ホテルの近所にコンビニなりの商店があれば有難いが、近所にそういった店が無い場合は旅の途中でなんとかしなければならない。長い距離を歩いてヘトヘトになっている状態で食事の手配をするのはかなりきついものがある。そこが難点だ。(そう考えると野宿遍路をされている方はやはりすごい人達だなと思う。)対して民宿の場合は、美味しい食事も用意されているし、お風呂にもすぐに入れる。一日の疲れを抱えた歩き遍路にとっては非常に有難い宿泊施設だと改めて思うわけだが、宿の人達にしてみれば、できることなら宿泊客には早い時間に宿入りしてもらいたいと考えられていることだろう。部屋の手配、食事の手配、風呂の手配など、いろいろなことに気を配らなくてはならない。全ての手配が終わった後で、かなり遅い時間になって予約をいれていた客から「すいません、今日はそちらまで辿り着けそうもないので予約はキャンセルさせていただきたいのですが…」などと連絡が入った時には、困るのを通り越してやりきれない気持ちになられることだろう。そういったことを考えると、何時に宿入りができるかわからない日には民宿に予約を入れるのは、やはり気が引ける。ご迷惑をかけてしまっては悪いからだ。
遍路のプランを練っているときに、「延光寺の近くにビジネスホテルはないものか…」と地図で調べてみたが、残念ながら民宿しか無かった。(「アサヒ健康ランド」という温泉施設の名が地図には載っていたが残念ながら数年前に閉店したようだった。)仕方がないので、延光寺付近で泊まることを諦めて宿毛駅周辺のビジネスホテルに予約をとることにしたのだった。とりあえず大晦日の日は延光寺に近い平田駅まで歩いておいて、電車で宿毛駅まで行き、一泊した後再び平田駅まで電車で戻って延光寺を参拝し、それから宿毛駅まで歩こうという…、ややこしいプランをたてていたのだ。正直、どうもしっくりこないプランだなとは思ってはいたが…。

 NさんとKさんの突然の提案に対して、『うーん、やっぱり民宿がいいかもな…。それに大晦日をホテルの部屋で一人寂しく過ごすより、みんなと一緒にいるほうがいいに決まってるしな…。』と思う気持ちが湧いた反面、『でも正味な話、ほんまに何時に宿に着くかわからんしなあ…。8時、9時じゃあ済まんかもしれんし…。どうしたもんかいな…。』といった不安もあった。宿にも迷惑をかけてしまうことにもなる。それにあまり遅い時間になってしまうと飲み会などやっている時間もないだろう…。
 NさんとKさんにそういった事情を説明すると、Nさんはケロッとした顔で、
「六根清浄さん(仮名)、そりゃ考えすぎでしょう。宿の人には僕等からもちゃんと説明しておきますから大丈夫ですって…。連絡もとりあえるわけだから、歩いている場所の確認もできるし、それから何時くらいに宿に着けるかもわかるじゃないですか。ちゃんと説明すれば宿の人もわかってくれますって…!」
と力説してくれた。

「そうですね…。うーん…。考えすぎだったのかもしれませんね。じゃあ、今夜はお二人と同じ民宿に決めようかな…。」
「よし!決まりですね!いやー、今夜はいい年越しを迎えられそうですねー。」

 多少の不安はあったものの、ここはもう二人の提案に乗ってしまうことにした。よくよく考えれば、この二人が先に宿に到着することで、二人が宿の人に僕が着くことを説明してくれることで、宿側にとってみれば確実に僕が来るのだと安心できるのである。
 
 (あとはなるべく早く宿入りできるように頑張って歩くだけやな…。)

  たとえ30分でも1時間でもいいから早く宿に着けるようにする。それは心がけて今日は歩いていこう。少しはペースを上げて歩かなければならないだろうが、多少は気持ちに張りを持たせるほうが一年の締めくくりの遍路をする上ではいいのかもしれない。度が過ぎると、また余裕のない遍路になってしまうかもしれないので、その辺の加減も考えながら…。


 「実はですね…。さっきからトイレに行きたくてですね…。」
 
 肝心の用を済ますのを忘れていた。二人は笑って、
 「そうですか。じゃあ、そろそろ僕等は先に行かせてもらいます。けっこう長い時間、休憩しましたからね…。そろそろ発たないと先が心配ですからね…。」
と言いながら、荷物を背負いはじめた。
 「どうぞ、行ってください。多分、また追いつくと思いますけどね…。」
と、笑って二人を見送った。ベンチから立ち上がり、杖を突きながら歩き行く二人の後ろ姿を見ながら、改めてこの二人との奇妙な縁を感じていた。もし、今回の旅でこの二人との出会いが無かったら、どうなっていただろう。恐らく全く「別物」の旅になっていたことだろう。足摺岬からの帰途もそうだったが、今日の遍路も全く内容の違うものになっていた筈だ。
 仏縁という言葉がまた頭をよぎった。彼らの今の提案も、ある意味では御大師様の御導きなのかもしれない。どういう御導きなのかはまだわからないが…。いずれその答えはわかる筈。今はただその大きな力が生み出す流れの中に身を任せるのみである。


taku2007 at 07:00 │Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!歩き遍路 - 2008年12月〜2009年1月 

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